

安達太良の眺めを得るために選んだ、この丘。強い山風が吹く冬の朝、家の中は薪ストーブの暖がめぐって、日だまりのように穏やかです。薪の火で豆をゆで、丘の斜面から菜を摘む。キッチン横にしつらえた作業場でうどんを打ち、客人と語らいながら、もてなしの料理をつくる家の主。「心に従い、矩(のり)をこえぬ」──五感の求めるものに素直で、飾らず、丁度いい「ふつう」のくらしがこの家で始まっています。
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薪の火のあるくらしを、ずっと夢見ていた施主・Y様。旧邸の暖炉は、諸々の理由でほとんど使うことができなかったとの事。ようやくその願いを叶えることができました。薪ストーブの火は、料理好きのY様の、二つめの調理場としても大活躍です。
趣味の広いY様が〈終の棲家〉で得たアトリエ。飾られた絵や小物の一つ一つに至るまで、こちらが問えば、かぎりないエピソードがY様の口から紡ぎ出されます。画架(がか)の高さに合わせて設計された屋根の傾斜は、外観のアクセントに。
施主・Y様とラ・ビーダを20年つないだ水屋箪笥は、江戸末期〜明治初期の作。この家の象徴・重心となる一棹です。ラ・ビーダが新築を祝って手直しを施しました。経年で生じたゆがみに合わせ、家具職人が繊細な手仕事で仕上げています。

出会いは二十余年前。私たちラ・ビーダが、家具=木工の原点を見つけるために仕入れた、一棹の水屋箪笥。人、木、歴史、智慧(ちえ)。この国の「きずな」を託したその一棹を、生涯使う「生活のうつわ」として引き受けてくださった一人のお客様ーーそれが、Y様でした。
二十年の間に、私たちの思いは深まり、広がりました。食べること、眠ること、くつろぐこと。生活にかかわる物事のそばにある「家具」、そこにある「くらし」と「住まい」を考え続けたその答えは、住まいづくりへの意志となりました。
良いご縁を頂いて十数棟をつくりあげた頃、あの水屋箪笥はそれを引き受けた人とラ・ビーダの思いを、空間を超えてつなぎ続け、二十年目、ふたたび新しいものがたりを紡ぎました。
時を経て互いが得た、住まうことへの解答。飾らず、心地よく、丁度よくて、後世に継げる、家=「いのちのうつわ」。水屋箪笥に託した「きずな」が今、終の棲家へと形をかえて、託し託されながら、つながり続けています。